最近は、少しだけ手を繋ぐことを躊躇う。少しでもどこか、触れ合っていたいと想う心に変わりはないけれど、繋いだ手は、必ず離さなければならないから。
自分が、子どもだと思ったことはない。
変に大人ぶっていると思ったこともない。
年相応に、それなりに。きちんと手順を踏んで、成長しているつもりだった。
それでも、ここ最近、ほんの少しだけ。
17歳という自分の年齢を、もどかしく思う。
「……早く、大人になれたらいいのに」
ぽつりと呟くと、夕暮れの色に染まった彼女が、ぱちりと瞬きをして月森を見上げる。
そんな彼女に苦笑してみせて、月森は正面を見据えながら、彼女の手を握る手に、少しだけ力を込めた。
「俺が、もう少し大人なら。……この手を離さないでいられるのに」
誰かに保護されて生きていくしかない未成年の自分たちは、別々の保護の元へと帰らねばならなくて。
辿り着いたら、この手を離さなければならない。別の場所で、夜を過ごさなければならない。
今までも当たり前で、これからも当たり前のその現実が、時折不意に、月森の胸を痛ませる。
ずっと、一緒にいられたらいいのに。
どこにも帰ることなく、同じ場所へ辿り着けたらいいのに。
その焦燥は、ただ、自分たちが親の保護を受ける未成年であるという現実とは別に。
違う原因から起因することだというのも、本当は知っている。
「……そんなの、すぐだよ」
「香穂子」
「大人になるのなんて、あっという間だよ。大人になってからの方が人生長いんだよ。簡単に大人になっちゃったら、17歳でないと経験出来ないことを経験出来ないままに終わっちゃう。……勿体無いよ」
そう、あっさりと言える彼女は。
多分、月森よりも、ずっとずっと、強い。
彼女を切り離す月森よりも。
置いていかれる、彼女の方が。
月森くん、と名を呼ぶ彼女が。
月森と同じくらいの力で、ぎゅっと月森の手を握り返して来る。
立ち止まって、そんな彼女を見おろすと、香穂子は夕陽に染まる柔らかな曲線を描く頬をふわりと綻ばせた。
「今、離れ離れになって辛いと想うことを、ずっと、覚えていたらいいんだよ。大人になっても忘れないで、ちゃんと抱き締めてたらいいんだよ」
きっと、大人になってしまったら。
別れは、人生のほんの一部の出来事にしか過ぎなくなって。
その喪失の痛みに、心は麻痺していく。
それが当たり前だと嘯くようになる。
いつかは逢えると分かっている別れに、心を痛めるのは。
手と手で繋がっている存在が、ひどく大きなものだと錯覚出来るからこそ。
自分たちはちっぽけで。
世界中に何十億と存在しているものの中のたった一つでしかなくて。
代わりになるものが、本当はあちらこちらにたくさん散らばっているのだと知りながら。
それでも、目の前のものが唯一絶対だと、勘違い出来る若さ故。
「……やはり、早く大人になりたい」
「月森くん」
月森の言葉に、表情を陰らせた香穂子に、月森は小さく首を横に振る。
彼女の言葉を否定しようとしたわけではなく。
むしろ、その逆で。
「今しか出来ないことを全部拾って、きちんと自分の中に呑み込んで吸収して、そうして大人になれる日が早く来たらいいと、そう思ったんだ。……そうしたら、その時は。きっと君と俺は、同じ場所に帰るのだろうから」
それは、絵空事だと分かっている。
叶う保証がない、夢物語の結末だ。
それでも。
そんな夢物語を馬鹿みたいに、盲目に信じていられるのも、幼さの特権であるというのなら。
まだ、未成年のままでいることは、そんなに悪いことじゃない。
香穂子が嬉しそうに微笑む。
肩を寄せあって、笑いあって。繋ぐ手と手にまた少し力を込めて。
そうしてまた、ゆっくりと家路を歩き出しながら。
それでも、この道程が少しでも長く、続いていくようにと。
香穂子と月森は、同じ幼い願いを、心に抱いて歩くのだ。
あとがきという名の言い訳 【執筆日:09.8.1】
どうしてこれ、大人組に振り分けられなかったかな!と、自分が書く段階になって地団駄踏みました(大笑)まあ、若いからこそ見れる夢ってあるんだよね……(と、苦笑いする程よい(?)大人)現実は優しくないし、思いどおりにならないし(実感のこもったお言葉)。
それでも、先に希望が抱けるのが若いうちの特権と言うことで。若いっていいな!(結論)


